★うつ病の症状

うつ病になると、心と体の両方に症状があらわれます。
まず、心にあらわれる症状としては、気分が深く落ち込み、悲しみや空虚感、絶望感などにとらわれる、感情メインの「抑うつ」が中心になります。うつ病における抑うつは、この日常的な気分の落ち込みに比べてはるかに重く、しかも長く続くのが特徴です。意欲や行動力が低下した状態となり、何をするのにも意欲も湧かず、行動力が鈍ります。思考の面でも症状があらわれます。頭がはたらかなくなって、考えがまとまらず、マイナス思考に陥りがちです。睡眠障害をはじめ、疲労感や食欲の低下、頭痛や吐き気、めまい、肩こり、便秘など、さまざまな症状があらわれる人もいます。


うつ病の精神的な症状は「感情面の症状」「意欲や行動面の症状」「思考面の症状」の3つに大きく分けることができます。
感情面の症状の中心が「抑うつ」です。気分が深く落ち込み、悲観的になるという辛い症状が長く続きます。
あらゆることへの興味や関心が著しく低下。すべてがおっくうになって、行動力が衰える、といった症状があらわれます。医学的にはこうした状態は「精神運動抑制」と呼ばれます。


思考面では、頭が働かず、集中力が減退したり、極端なマイナス思考に陥ったりしがちです。最悪の場合、自殺まで考えることもあります。
うつ病では、耐えがたいほどの強い憂うつ感(抑うつ)が2週間以上も長く続くのが特徴です。仕事や日常生活などに支障を来すことも多く、何をしても楽しさやうれしさを感じなくなります。

★発症のしくみ

うつ病になると、感情や思考を司る大脳辺縁系や視床下部、前頭葉などの脳の部位にトラブルが生じます。脳内では無数の神経細胞が複雑なネットワークを形成し、感情や思考などの情報をやりとりしています。神経細胞からは、情報を受け取る無数の短いアンテナ(樹状突起)と、情報を伝える長いアンテナ(軸索)が伸びています。
軸索の先端(シナプス)から神経伝達物質が放出され、これを別の神経細胞の樹状突起が受け取ることで情報が伝わります。
うつ病の人の脳では、気分や感情に関係する神経伝達物質のモノアミン(セロトニン・ノルアドレナリン・ドーパミン)が不足することによって、脳の情報伝達機能が阻害されます。
うつ病の脳では細胞の新生にかかわる「BDNF」というたんぱく質が不足し、機能が低下しています。

うつ病は早期発見・早期治療が肝心で適切に治療すれば治る病気です。兆候を見逃さず、専門医を受診することが大切です。

★原因

心身に大きなストレスがかかると、脳内の血流が低下し、脳内の神経伝達物質も減少します。蓄積したストレスはうつ病の原因となり、一時的な強いストレスよりも、長時間に渡って続くストレスのほうが、心に悪影響を与えます。
うつ病の原因となるストレスには、様々な事柄が複雑に関係し合ってます。
発病のきっかけになる7つの危険因子は「喪失体験」「人間関係のトラブル」「役割や環境の変化」「衝撃的なできごと」「うつ病になりやすい性格」「遺伝的素因」「アルコールや薬物への依存」です。
体の病気や薬が原因でうつ病になることもあります。がんなど先行きの不安や恐怖などがうつ病の引き金になり、脳梗塞や脳卒中、パーキンソン病、アルツハイマー病など、脳の病気が原因で抑うつになります。糖尿病、甲状腺機能低下症、バセドウ病、関節リウマチなどの免疫の異常で起こる病気などもうつ病を併発しやすいです。気管支ぜんそくや関節リウマチ、全身性エリテマトーデスなど、多くの病気で使われる副腎皮質ホルモン薬の内服で、抑うつが起きます。ウイルス性肝炎の治療に用いられるインターフェロンも副作用として強い抑うつが起こすおそれがあります。痛みを抑える鎮痛薬、血圧を下げる降圧薬、経口避妊薬、向精神薬などに抑うつの副作用があります。

★分類

仕事や人間関係で無理をして発症する働き盛りの年代では重症化しやすいです。中間管理の人に多いサンドイッチ症候群、新型うつ病、微笑みうつ、燃えつき症候群、昇進うつ、リストラうつなど、さまざまなタイプがあります。
子どものうつ病も増え続けていて、社会問題となっています。子どもの場合、抑うつがあっても、「気分が落ち込む」「何にも興味が湧かなくなった」などと自分の心理状態をうまく説明することができません。イライラしたり、急に怒り出したり、急に元気がなくなったりと、感情面や行動面にはその兆候があらわれます。腹痛、頭痛、不眠、日中の強い眠気、食欲低下など、体の症状が比較的はっきりとあらわれます。家族など周りの人は、こうしたサインを見逃さないことが必要です。
思春期や青年期に多い抑うつがあります。燃え尽き症候群、軽度うつ病、五月病、新型うつ病など、適応ストレスがうつ病発症を招きます。
高齢者のうつ病は抑うつよりも身体症状が目立ちます。認知症と似ているので注意が必要です。

うつ病は女性ホルモンの影響で発症することもあります。女性は、思春期、妊娠・出産期、更年期に、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が変動しやすくなり、このホルモンは脳内の神経伝達物質の働きにかわっているといわれ、精神状態の変動に強く影響を及ぼします。
「産後うつ病」は憂うつ感や不安感、育児への自信喪失や無関心などの症状が特徴です。「更年期うつ病」は女性ホルモンのバランスが大きく乱れるために発症するので、気分の落ち込みやイライラ、不眠、倦怠感、頭痛などの症状があらわれます。更年期障害との区別が必要です。
「仮面うつ病」とは、抑うつなどの精神症状より先に、身体症状があらわれるのが特徴で、身体症状という「仮面」をかぶっているため、精神症状が見えなくなっているうつ病です。
「季節性うつ病」とは、特定の季節に発症するうつ病です。そのほとんどは冬に起こり、春になると、自然に症状は消えていきます。
「非定型うつ病」も増加傾向にあります。「非定型」とは典型的でないという意味です、通常のうつ病とは異なる独特の症状があらわれるのが特徴です。

★双極性障害

抑うつと躁状態が繰り返しあらわれる双極性障害は、入院治療が必要な「双極1型障害」、躁状態が軽く、通院治療が可能な場合を「双極Ⅱ型障害」と呼びます。
双極性障害であらわれる抑うつは、うつ病の場合とほぼ同じですが、治療薬は気分安定薬や非定型抗精神病薬が中心となり、うつ病と異なるので病気の鑑別が重要になります。

★こころの病気

うつ病によく似た症状のこころの病気があります。うつ病と同じ抑うつ症候群に分類される「気分変調症」や「月経前不快気分障害」、動悸や息切れ、呼吸困難などの発作におそわれる「パニック障害」、人前で何かすることに強い不安を抱く「社会不安障害」、原因がないのに漠然とした不安感が常にある「全般性不安障害」もうつ病と同じ症状があらわれます。
パーソナリティ障害は、外界の刺激に対する反応のしかたに病的なかたよりがあり、対人関係や社会生活にうまく適応できなくなります。「境界性パーソナリティ障害」は抑うつや不安感が強くうつ病と症状がよく似ているこころの病気です。
うつ病を併発しやすいこころの病気があります。不安障害とは、病的な不安感のために日常生活や仕事に支障を来す病気です。抑うつやイライラ、あせり、動悸、息切れ、頭痛、吐き気などの症状が、うつ病とよく似ています。強い不安から、外出や人付きあいなどの自信をなくし、うつ病を発症しやすくなります。
うつ病と不安障害が合併すると、それぞれが重症化や慢性化しやすいです。
特定の行為への不安が強い「強迫性障害」や、命の危険を感じるような、経験後に負う心の傷「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」なども、うつ病を併発しやすい病気といえます。
うつ病になりやすい体の病気があります。がん患者の約2割、末期がんでは約半数の人が、うつ病にかかるといわれています、これは、がんによる代謝障害や、神経伝達物質や免疫への影響などが要因と考えられます。告知を受けた際の精神的なショックや不安、死に対する恐れ、入院中の環境の変化などのストレスも関係しているでしょう。こうしたことは、さまざまな病気で見られます。糖尿病の人は、そうでない人の3~4倍もうつ病にかかりやすく、治療のために食事などの制限が長く続くことなどがストレスになります。体の病気にうつ病が併発すると、気力や意欲が低下して治療が不十分になりやする、両方とも治りにくくなります。

★発達障害

うつ病は「発達障害」の二次障害として起こることもあります。発達障害とは、コミュニケーションや認知、運動、行動、学習、社会性などの能力がアンバランスになり、生活に支障を来す障害の総称です。

生まれつき脳の機能にかたよりがあることが原因でおこります、かたより方の特性によって、「自閉スペクトラム症」「注意欠如・多動症(ADHD)」「限局性学習障害(SLD)」などがありますが、これらの境界はあいまいで、重なってあらわれることもあります。発達障害は、先天的な脳の機能の問題なので、幼児期から人とコミュニケーションがとれなかったり、「落ち着きがない」「ミスが多い」などと叱られたりして、自己評価を低くして育つ傾向があります。失敗体験が重なって落ち込み、うつ病を発症しやすくなります。社会に出てから問題に直面し、うつ病になり受診することで、発達障害がわかることもあります。
「難治性うつ病」とは、十分な量の抗うつ薬を十分な期間服用しても、うつ病の症状が改善しない場合があり、症状に改善が見られてうつ病自体がよくなったように見えても、すぐに再発して慢性の状態となり、結局2年以上も治療を受け続ける、といいいうような場合もあります。原因としては、不安障害や適応障害、パーソナリティ障害、アルコール依存症などとの合併が考えられます。甲状腺機能低下症、HIV、脳梗塞など身体的な合併症がある場合も、難治性うつ病を発症する可能性があります。対策としては、脳に電気的な刺激を与える通電療法があります。セカンドオピニオンも検討します。

うつ病の診断には世界標準の診断基準マニュアル「DSM―5」が広く用いられています。以前の診断基準では、双極性障害とうつ病は同じ「気分障害」に分類されていいましたが、2013年に気分障害の概念そのものが廃止され、双極性障害とうつ病はまったく別の病気として扱われています。「DSM-5」では、双極性障害のグループと別に、うつ病は「抑うつ障害群」に分類されています。うつ病の典型的な症状を発症していること、その症状がほかの精神疾患によるものではないことなど、5つの基準をすべて満たしているものを「うつ病」と診断されます。

★治療の基本

うつ病治療の基本は、十分な休養と服薬です。休養についてはうつ病治療の初期に必要となる絶対に欠かせないものです。

休むことが治療であり、早目の社会復帰なども期待できます。休養のポイントは、十分な睡眠時間をとる、ストレスの要因から離れる、とにかくのんびりする、休養しなければと焦らない、ことです。服薬治療は軽度の場合は薬を投与せず十分な休養をとって様子をみることもあります。

★薬物治療

抗うつ剤は、ドーパミン、セロトニン、ノルアドレナリンという、神経伝達物質の働きを強めることにより症状を改善します。

第一選択薬として用いられているのが、セロトニンの吸収分解を阻害する「SSRI」、セロトニンとアドレナリンの吸収分解を阻害する「SNRI」です。「NaSSA」は新しい抗うつ薬で、先の2つとは異なるしくみで、セロトニンとノルアドレナリンの働きを強めます。これらの薬が効かなかった場合、「三環系抗うつ薬」ですが、副作用が強いため、第一選択薬ではありません。副作用を少なくするために「四環系抗うつ薬」が使われます。